建物をつくることは、単に「かたち」をつくることではありません。
そこで過ごす方々にとって心地よい「場所」を生み出す――。それこそが私達建築士の仕事だと思っています。
今回は、そのために大切にしている三つの考え方についてお話します。
対話を重ねること

サテライト代表・建築士の原芳洋です。
私が設計に向き合うとき、いつも大切にしていることがあります。それは、図面を描く前の時間を、何より大事にするということです。
設計事務所というと、「かっこいい建物をデザインする場所」という印象を持たれることもあるかもしれません。
もちろん、見た目の美しさやデザイン性はとても大切です。しかし私たちが目指しているのは、単に見た目の良い建物ではありません。
そこに暮らす人、働く人、訪れる人それぞれが自然体でいられる、心地良い場所。そんな建物を作り出すための設計は、図面ではなく「対話」から始まります。
最初の打ち合わせでは、多くの方がさまざまなご要望を話してくださいます。
「収納をたくさん取りたい」
「明るいリビングにしたい」
「家族が集まれる場所がほしい」
どれも大切なご要望です。けれど私たちは、その言葉をそのまま受け取るだけではなく、もう一歩踏み込んで考えます。
「なぜ、収納を増やしたいのだろう?」
「どんな時間を、そのリビングで過ごしたいのだろう?」
たとえば「収納を増やしたい」というご要望の背景には、「片づけが苦手だから、自然と整う仕組みがほしい」という思いが隠れていることがあります。
あるいは、「家族が集まれる場所がほしい」という言葉の奥には、「忙しくても、自然と顔を合わせられる暮らしがしたい」という願いがあるのかもしれません。こうした「言葉の奥」にある本音に気づくことができたとき、設計の方向性は大きく変わります。
だからこそ、私たちは対話を重ねます。一度きりではなく、何度も、何度も。
雑談のような時間の中に、ヒントが隠れていることも少なくありません。暮らしのこと、好きなこと、少し不便に感じていること。そうした何気ないお話の中から、その人らしい住まいのかたちが見えてきます。
設計とは、図面を描く作業である前に、「その人の暮らしを理解すること」だと、私たちは考えています。
使う人の時間を想像すること

建物は、完成した瞬間がゴールではありません。むしろ、本当の意味でのスタートは、そこからです。家、施設、店舗。それがいかなる場所でも、これから使用者の方と長い年月を共にすることになるのです。
朝の光が差し込む時間。帰宅してほっと一息つく時間。家族や仲間と過ごす時間。私たちは、そうした「未来の時間」を想像しながら設計を進めます。
たとえば、小さなお子さんがいるご家庭。今はまだ幼い子どもも、数年後には小学生になり、やがて思春期を迎えます。そのとき、この家はどう使われているだろう。家族の距離感はどう変わっているだろう。
あるいは、これから年齢を重ねていくご夫婦。若い頃には気にならなかった段差や動線も、将来は大きな意味を持つかもしれません。
「今」にぴったり合うことはもちろん大切です。しかしそれ以上に、「これから」にも寄り添えることが重要だと考えています。
流行に左右されすぎないこと。無理をしない動線をつくること。時間とともに味わいが増していく素材を選ぶこと。それらはすべて、「10年後も心地よく暮らせるか」という視点から生まれています。
建物は、時間とともに育っていくものです。だからこそ、使う人の時間を想像することは、設計に欠かせない大切な作業なのです。
場所と調和すること

建物は、単体で存在するものではありません。必ず「場所」と結びついています。
同じ大きさの敷地でも、周囲の環境や地形、方角によって、そこに流れる空気はまったく異なります。朝の光がどこから差し込むのか。午後の西日がどの程度強いのか。風はどの方向から吹き、どこに抜けていくのか。こうした自然の要素を読み取ることは、設計の基本であり、同時にとても奥深い作業でもあります。
たとえば、窓の位置をほんの少し変えるだけで、部屋に入る光の質は大きく変わります。
また、風の通り道を意識することで、機械に頼りすぎない、自然な心地よさを生み出すことができます。
さらに私たちは、「素材の表情」にも目を向けます。木、石、土、金属。それぞれの素材には、独自の質感や経年変化があります。
新品のときが一番美しいのではなく、時間を重ねることで味わいが増していく素材。そうしたものを選ぶことで、建物はより豊かな表情を持つようになります。
周囲の風景に溶け込みながら、その場所ならではの魅力を引き出すこと。それが、「場所と調和する」ということだと、私たちは考えています。
かたちの前に、想いをつくる
建築設計は、かたちをつくる仕事です。けれどその前に、私たちは「想い」を形づくる仕事でもあると思っています。
対話を重ねること。使う人の時間を想像すること。場所と調和すること。
この三つの積み重ねがあってこそ、はじめて本当に意味のある「かたち」が生まれるのだと思います。
建物は、人生や事業の大きな節目に関わる存在です。お客様のこれまで、そしてこれからの物語(ストーリー)に彩りを添えられるものでもありたいと思っています。だからこそ、その一つひとつに丁寧に向き合いたい。
これからもサテライトは、人と人、人と場所、人と時間をつなぐ存在として、ひとつひとつの設計に向き合っていきたいと考えています。
