「サテライト」という名前に込めた想い

日々、住宅や店舗、施設などの設計に携わるなかで、「なぜサテライトという名前なのですか?」と尋ねられることがあります。建築士事務所の名前としては少し珍しい響きかもしれません。

今回は、私たちがこの事務所を立ち上げる際に、どのような想いでこの名を冠したのか、その由来と私たちが大切にしている設計思想についてお話ししたいと思います。

「サテライト」という言葉が持つ意味

サテライト代表・建築士の原芳洋です。

「サテライト(satellite)」とは、英語で「衛星」を意味する言葉です。

地球のまわりを静かに回る月や、通信・観測のために宇宙へ打ち上げられた無数の人工衛星。

衛星は夜空を見上げたとき、月は太陽のように自ら激しく燃えて光を放っているわけではありません。人工衛星にいたっては、肉眼でその姿を捉えることも難しい。つまり、衛星という存在は決して「中心にいる存在」ではありません。

しかし、衛星は私たちの世界にとって非常に重要な役割を担っています。

月の引力は潮の満ち引きを生み出し、海水を循環させることで海の環境を保っています。そして人工衛星は、スマートフォンの通信をつなぎ、GPSで正確な位置情報を示し、気象や地球の環境を俯瞰して観測することで、私たちの日常を根底から支え続けています。

見えないけれど、確実に機能し、なくてはならない存在。

中心にいる存在を、少し離れた軌道上から見守り、支え続ける役割。

この衛星の在り方こそ、私たちが目指したいと強く願った「一級建築士事務所の姿」でした。

建築における「中心」とは誰か

建築プロジェクトにおいて、中心にいるのは誰でしょうか。

中心に常にいるのは、他でもない「その建物を使う人々」です。

家づくりであれば施主とそのご家族、店舗やオフィスであればそこで働く社員の方々、訪れるお客様、そして地域の人々。彼らのこれからの人生や事業、抱いている夢や想いこそが、プロジェクトの中心にある大きな星となります。

私たちは、その星が放つ「想いという引力」に惹きつけられ、人々を中心とした軌道を描きながら伴走する「衛星」でありたいのです。

近すぎれば、設計者のエゴを押し付けることになり衝突してしまいます。逆に遠すぎれば、施主の細やかな心の動きを捉えきれず、軌道から外れてしまいます。常に適切な距離感で対話を重ねる。利用者の周囲を巡りながら状況を観測し、必要なタイミングで的確な提案を届ける。それが私たちの理想とするスタンスです。

「寄り添う設計」と「俯瞰する目」

「お客様に寄り添う」という言葉は、あらゆる業界でよく使われる抽象的な表現ですが、設計実務においての「寄り添い」とは、極めて緻密で具体的な行為の積み重ねです。

まずは、ヒアリングの時間を何よりも大切にします。施主が言葉にする「こんな家にしたい」というご要望はもちろんですが、その奥にある「言語化されていない本当のニーズ」を共に掘り下げていきます。「なぜそうしたいのか」「どんな時間を過ごしたいのか」を問い続けることで、ご本人すら気づいていなかった本質的な答えが見えてきます。

しかし、想いだけでは建築は建ちません。

敷地の条件、厳格な法的規制、コストの壁、そして何より命を守るための構造安全性。これら現実的課題を冷静に整理し、クリアしていく必要があります。将来的なライフスタイルの変化や、建物の運用、数十年にわたるメンテナンス費用までを見据えなければなりません。

建築は、意匠(デザイン)だけでは成立しない総合技術でもあります。

法規、構造合理性、設備、予算管理、工程管理といった複数の専門領域が重層的に絡み合っています。

この複雑な全体像を「俯瞰」し、施主にとっての最適解を導き出すこと。この姿勢もまた、上空から地上を見渡す衛星(サテライト)の視点と重なります。地上で迷子になりそうなとき、少し離れた高い位置から全体を観測し、「こちらにこんな道がありますよ」「そこは行き止まりになるリスクがありますよ」と、正確な地図(図面)を示すこと。それがサテライトとしての私たちの役割だと考えています。

想いと技術を「繋ぐ」中継点として

一つの建築が完成するまでには、驚くほど多くの人々の手が関わります。

中心にいる施主をはじめ、私たち意匠設計者、構造を計算する構造設計者、電気や水回りを担当する設備設計者。そして現場に出れば、施工会社の現場監督、基礎工事職人、大工、左官職人、建具職人、行政の担当者、さらには近隣にお住まいの方々。

何十人もの関係者が有機的に連携し、同じゴールに向かって進まなければ、良い建築は生まれません。サテライトは、この複雑なネットワークの中央で、それぞれを「繋ぐ」役割を担います。私たちは単なる図面作成者ではなく、プロジェクトの調整者であり、伴走者であり、そして「翻訳者」でもあります。

たとえば、施主の「あたたかみのある空間にしたい」という感覚的な想いを、職人たちに向けて「この木材のこの仕上げで、照明の照度と色温度はこれで」という具体的な数値と技術言語に翻訳して伝えます。

反対に、職人からの「この納まり(部材の接合部)では雨漏りのリスクがある」という専門的な懸念事項を、施主にわかりやすい言葉で翻訳し、デメリットを回避する代替案をご提示します。

この双方向のコミュニケーションが機能しなければ、理想と現実の間に、簡単に断絶が生まれてしまいます。宇宙空間の通信衛星が、遠く離れた地上と地上の電波を中継して繋ぐように、私たちもまた、人と人、人と場所、そして「施主の想い」と「職人の技術」を繋ぎ合わせる中継点でありたいと考えています。

静岡という土地で、長く見守り続ける

私たちが活動する「静岡」という地域性も、サテライトの思想において非常に重要な要素です。

静岡は気候が温暖で日照時間も長く、海と山に囲まれた自然豊かな素晴らしい土地です。しかし一方で、常に大規模な地震リスクと隣り合わせの地域でもあります。また、沿岸部における塩害への対策や、台風・湿気への配慮も欠かせません。

地域の風土、気候、生活文化、そしてリスクを深く理解していなければ、この土地で本当に機能し、長く安全に住まうことのできる建築はつくれません。

そして、「サテライト」という名前には、この地域社会と繋がり続けるという決意も込めています。

設計事務所の仕事は、建物の引き渡し(完成)がゴールではありません。建物が完成したその日から、施主の新しい暮らしや事業の軌道がスタートします。

単発のプロジェクトを作って終わりにするのではなく、そこから始まる長い年月を共にする「かかりつけの設計事務所」でありたい。10年後、20年後のライフスタイルの変化に伴うリノベーションや、定期的なメンテナンスのご相談など、空から軌道を見守り続ける衛星(サテライト)のように、長期的な視点で寄り添い続けます。

目立たないけれど、不可欠な存在へ

夜空を見上げても、人工衛星は強く自己主張して光ることはありません。

私たちが目指すのは、日々の何気ない暮らしの中で、「ああ、この空間は心地いいな」「使いやすいな」と静かに感じられるような、日常の風景に溶け込む質の高い建築です。

プロジェクトが終わったあと、あるいは何年も経ったあとに、施主から「あの時、サテライトさんが伴走してくれて本当によかった」と思っていただける存在になること。

冷静な判断力と、建築への熱い情熱を両立させること。

専門的な技術力と、人に対する誠実さを軸に、一つひとつのプロジェクトに真摯に向き合うこと。

それが、サテライトという名前に込めた私たちの決意です。

最後に

家づくりは、人生における非常に大きな節目です。施設づくりは、事業の根幹を形にする重要な局面です。

どちらも多くの時間と費用、そして何より、大きな覚悟とエネルギーを伴う選択でしょう。

困った時、迷った時、家族やチーム内で意見が衝突してしまった時――いつも適切な距離で寄り添い、確かな技術と対話をもって施主の決断を支える。

それが私たちの役割だと考えています。

「サテライト」という名前は、初心を忘れないための、私たち自身への宣言でもあります。

金沢工業大学大学院修了後、静岡県内の総合設計事務所に勤務。住宅・保育園・事務所・公共施設などの新築設計をはじめ、既存建物の改修、維持管理、建築士法関連の手続きや事務所の経営企画、営業、広報、採用など、設計実務にとどまらない幅広い業務に携わる。16年の在籍を経て、2023年5月に独立しサテライト一級建築士事務所を開設。建物のさまざまな課題に向き合ってきた経験をもとに、建築設計や空間づくりに関する多様な相談に応じている。