サテライトにとって、建築とはそもそもどういうものなのか。今回は私たち自身のためにも言語化してみたいと思います。キーワードは「物語」です。なぜ物語なのか。そして、物語をどう見つけ、空間にしていくのか。サテライトが建築に込めている考え方をできるだけ整理してお話しします。
サテライトにとって建築は、人の物語を形にするもの
サテライト代表・建築士の原芳洋です。
長年建築士として働いてきて、建築の本質とは何なのか、と考え続けてきました。最近、一つの答えに行き着きました。一言で表すと、サテライトにとって建築とは、人の物語を形にするものです。
なぜ物語なのか。それは、建物ができた後、そこには人の暮らしが生まれ、時間が積み重なることで物語ができるからです。
建築は、図面を完成させる仕事そのものではありません。図面はあくまで、お客様が思い描く暮らしや事業、そこで生まれる人との関係を形にするための手段です。
私たちがまず大切にしているのは、対話によって物語の種を見つけること。そして、見つけたその種が花開く空間に翻訳することです。
対話によって、お客様の物語の種を見つける

サテライトにとって、設計の第一歩は図面を引くことではありません。お客様とじっくりと対話を重ね、「物語の種」を見つけることから始まります。
ここでいう物語の種とは、建物が完成した後に、そこでどんな時間が流れ、誰が訪れ、どんな会話が生まれ、どんな暮らしが続いていくのかということです。
しかし、いきなり単刀直入に「この建物でどんな物語を紡ぎたいですか」と質問をしても、お客様が明確な答えをあらかじめ持っているわけではありません。たいていは、「たくさんの人に訪れてほしい」「心地よい空間をつくりたい」「普通の建物にはしたくない」といった言葉があるだけです。そこで、私たちはその言葉を手がかりに、その人が本当に望んでいる理想の未来を、対話によって見い出していきます。
たとえば「たくさんの人に訪れてほしい」という言葉の奥には、にぎやかな場所にしたいという思いがあるのかもしれません。あるいは、地域の人が気軽に立ち寄れる場所にしたいのかもしれません。「心地よい空間」も同じです。明るく開放的な場所を指す場合もあれば、静かに落ち着ける場所を指す場合もあります。
その違いを見つけないまま図面にしてしまうと、お客様が本当に望んでいたものとは違う建築になってしまいます。
だから私たちは対話で、言葉の奥にある生活スタイルや価値基準を掘り下げます。改修物件のように条件が限られている場合でも、「これしかできない」と考えるのではなく、「この物語を実現するために、何ができるか」と考えます。
建築の小さな判断は、どれも完成後の利用者の満足度を大きく左右するものです。窓の位置、光の入り方、人が腰を下ろす場所、外との距離感。その一つひとつが利用者に影響を及ぼし、人生というドラマを豊かな方向にも、そうでない方向にも導きます。
だからこそ、最初に見つけるものは図面の正解ではありません。お客様がそこでどんな日々を送りたいのかという物語の種なのです。
物語の種が花開く空間に翻訳する

対話によって見つけた『物語の種』は、そのままではまだ建築にはなりません。それを窓の位置、光の入り方、風の抜け方、動線、居場所のつくり方といった具体的な空間へ翻訳していくことが、サテライトの設計です。
たとえば、落ち着いて過ごせる場所をつくるのであれば、ただ明るく広い空間をつくればよいわけではありません。少し暗さを残した場所、やわらかく光が届く場所、自然と腰を下ろしたくなる場所が必要になることもあります。
人が集まる場所をつくる場合も、単に大きな部屋を用意するだけでは足りません。人が集まりやすい距離感や、会話が生まれやすい余白を考える必要があります。
建築は、図面の上では線や寸法の集まりです。しかし、その線の一本一本が、完成後にそこで過ごす人たちの体験や感情を変えていきます。住宅であれば、どこから光が入り、どんなくつろぎ方ができるのか。公共施設や福祉施設であれば、どこで人が立ち止まり、どこで誰かと目が合うのか。その積み重ねによって、建物の中で生まれる物語は大きく変わります。
私たちは、ただ形のよい建物をつくりたいわけではありません。お客様が思い描いた未来の物語を実現する空間を描きたいのです。その物語が実際に花開くための舞台を整えるのが私たちの仕事です。
建築の先にある物語を大切にする設計事務所であり続けたい
建築とは、人の物語を形にするもの。この考えに沿って、私たちはお客様との対話を重ね、光や風、居場所、外とのつながりを空間として整えていきます。
さらに私たちが大切にしているのが、「器」と「森」という感覚です。
器とは、暮らしを受け止める空間のことです。たとえば、同じコーヒーでも、紙コップで飲むのか、手になじむ陶器のカップで飲むのかによって、感覚は変わります。建築も同じです。ただ雨風をしのぐだけなら、建物はシェルターで十分かもしれません。しかし、空間の明るさ一つを考えても、窓の大きさや光の入り方、天井に反射させる照明などによって、そこで過ごす時間の質は変わります。建築は、人の暮らしを受け止める器なのです。
そして森とは、人が自然体でいられる環境のことです。森の中では、誰かに見せるために強がる必要がありません。光が差し、風が抜け、少し暗い場所もあり、安心して身を置ける。そういう空間があると、人は少し肩の力を抜くことができます。そこで会話が生まれ、誰かの小さな挑戦を応援できるような関係も育っていくのだと思います。
建築の物語は、建物の中だけで完結するものでもありません。住宅であれば家族や訪れる人との関係があり、福祉施設であれば利用者、スタッフ、地域の人たちとの関係があります。建物の外から中のあたたかな気配が感じられたり、地域の人が少しずつ関心を持ったりすることで、その場所に新しい文脈が生まれていきます。
もちろん、設計者がその後の物語をすべて決めることはできません。主役は、そこで暮らし、働き、訪れる人たちです。私たちにできるのは、その物語が豊かな方向へ育っていくように、舞台を丁寧に整えることです。
建築のことで相談が必要になったときは、私たちにあなたの想いをゆっくり聞かせてください。建築が完成した後に、そこでどんな時間が流れ、どんな関係が育っていくのか。その物語を大切に考えさせていただきます。
